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パンドラの箱 [歯の話]

 巷では医師不足の問題が話題になっています。けれども日本の賢明な官僚の皆さんは 昔から今後起こり得る事、問題の本質もすべてすでに把握なさっていたと思います。そして、日本の社会保障問題がパンドラの箱であり、絶対に自らの手でふたを開けてはならないことも。
救急救命医や産婦人科医不足の問題では少しパンドラの箱のふたが開きつつあるようです。

問題の本質は実は単純です。
医療の財源は 国民のニーズや治療の効果、安全性によってコスト計算されて決められたものではなく、まず医療の財源というのがどんぶり勘定的に決められてしまうのです。その根拠はただ景気と前年度比であったり、GDP比であったりです。その中で歯科医療の治療費が決められているのです。
「これだけのレベルの治療を現在の世の中のルールを遵守して、安心安全に行えばこれだけコストがかかる」と計算されたのではないのです。
その積算根拠のあいまいさが様々なところにしわ寄せとなっているのです。

介護福祉士の賃金の低さが問題になっていますが、しわ寄せと言うのは大抵弱者のところに来ます。(歯科医業は現在は弱者です。)
 官僚の皆さんや政治家の皆さんはそろそろ「現在の財源で国民の皆さんに安心、安全良質な医療を提供するのは無理です。」と言ったほうがよいと思うのですが、パンドラの箱を開けるのが怖いのか、現在でも、良質な医療が提供できていることにこの国ではなっているようです。

2368620法隆寺五重の塔

 

 よく歯科医療の領域でどこからともなく上がってくる動きに、「財源がないので、入れ歯や金属の冠は保険からはずそう」という動きがあります。(歯科医は「保険からはずしたい」とは絶対に思っていません。)
もちろん一番困るのは国民の皆さんです。この論理も「まずは財源が第一」であり、国民のニーズは関係ありません。
今の歯科の治療代がほぼ決まった頃は待合室に患者があふれ、「インフォームド・コンセント」などという概念はなかったし、治療も今と比べれば格段に単純で、患者さんの要求も高くありませんでした。極論すれば、歯医者は痛い歯を抜く所でした。

 時代の変化に伴い、国民や厚生省と「出来ること」と「出来ないこと」をきちっとした議論をし、目指す医療を提示しなかった歯科医にも問題があります。 国民皆保険になった頃の医療技術と、患者さんとのコミュニケーション、医療安全への要求、美しさへの要求 いずれを比較しても、現在では相当要求は高くなっているのに、歯科治療にかかる単価は増えてないどころか減っているのです。価格の件は過去のブログを参照してください。

 患者さんの意見を聞いていると、患者さんは「事前に説明が不十分」と感じてらっしゃるようで、「そんな話は聞いていない」というのが歯科でのトラブルの原因のようです。
では、今の歯科医療制度で患者さんから十分時間をかけて話を聞いたり、説明することは可能でしょうか。(「説明を受けるのを遠慮してください」と言っているのではありません。!良心的な歯科医は納得のいくまでコミュニケーションをとろうと努力します。)

住人が大学病院に勤務していた約20年前は 1日に見ていた患者さんはせいぜい両手でたりる数でした。その代わり、大学病院なので、安全や品質にコストを十分かけ、患者さんとの会話に時間をかける理想的な治療が出来ました。しかしながらそんなことをすれば当然、大学病院の経営は赤字です。(今は大学病院も独立採算が求められ、昔とは変わりました。)
現在、総合病院からどんどん歯科が消えているのにお気づきでしょうか。
理由は医科と比べて歯科は儲からないどころか、お荷物だからです。「病院内に歯科があっても、その病院と別組織で経営者は別」というところもあるようです。解り易くいうと不採算部門の歯科は下請けにさせているのです。

 治療技術の進歩とともに 治療法が多岐にわたり、それぞれにメリットデメリットがあり、一方で患者のニーズも多彩になり、要求は日々高くなっています。 歯科医過剰と言いますが、ちゃんとしようとしたら、日本の歯科はまだ、マンパワーも財源も不足しているのです。スタッフを充実させれば、安心安全や皆さんの健康に貢献できるかもしれませんが、人件費は誰も面倒をみてくれません。
もちろん「湯水のように財源を歯科に回せ」と主張をしているわけではありません。でも現在の日本人が求める安心、安全な歯科医療を 現在の財源で供給するのは無理と断定してもよいのではないでしょうか。

理解していただきやすいようにたとえ話をしましょう。
先ほど大学病院の話をしましたが、仮に歯科医が8時間労働して患者さんの数が12人(1時間に1.5人)であれば、十分説明ができて、お役人が求める安心、安全で、良質な治療が出来るとしましょう(もちろん仮定の話ですし、これでは赤字です)。
一方 あなたが通院している歯医者さんの予約時間は何分間でしょうか?30分?1時間?
仮にあなたの通っている歯医者さんが診ている患者さんの数が一日24人(1時間に3人)だとしましょう。
あなたが大学病院と同じだけ十分に時間をかけた説明と治療を希望するとしたら、歯科医は患者さんの数を半分に減らさないといけません。半分の患者さんの数で今の収益を維持するためには およそ今の倍の費用を皆さんから頂く理屈になります。

多くの歯医者さんはじっくり患者さんとお話したいと思っています。でもそれが困難なシステムなのです。説明に要する時間もコストであることがお解りいただきたいのです。

一般企業では薄利多売という言葉がありますが、医療で それが可能なのであれば、大病院の歯科はなぜ消えていっているのでしょう。なにかよい方法がありましたらぜひ教えていただきたいと思います。

安心、安全は常にコストがかかります。そして、「これで十分」ということは医療にはありません。

患者さんからいただく窓口の負担金を割引して治療していたところがあったそうですが、それでつぶれずに採算が合っているとすれば、自分の治療のレベルの低さを自ら証明しているようなものです。
通常、歯科大学で習った治療レベルを維持して保険で赤字にしないためには涙ぐましい努力が必要であり、それほど容易ではないのです。

 今、真面目な歯医者さんはみな歯を食いしばってがんばっていますが、いつかパンドラの箱が開く日が来るかもしれません。
パンドラの箱が開かない限り、医療の現状は皆さんに理解いただけないのかもしれません。
パンドラの箱が開いてしまったら、後は国民の皆さんがどのような医療を望むかで今後の医療が決まります。

最後に では、現時点で、国民の皆さんはどうすれば得策でしょうか。
「なるべく歯を治療しなくてすむように、入れ歯にしなくてすむようにする」ためにコストをかけるべきです。
悪くなる前に歯医者さんに行って、定期的にお口の管理をしてもらいましょう。

>>>フロス(糸楊枝)or ダイ(死)-定期健診でバイオフィルムの除去を-

>>>歯が20本以上残る70歳以上の高齢者、病気診療費37%少なく

>>>歯科治療と価格2

>>>日本人について考える


参考HP
>>>輸入義歯の使用経験7.4%=中国製7割超、歯科医アンケート-厚労省研究班
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090411-00000112-jij-soci

 

法隆寺


タグ:歯科 医療 財源
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