悪くなったらまた来ます。

　入れ歯や金属の冠が入って今日で治療がひと段落というときに。患者さんのなかには「ありがとうございました。また、悪くなったら連絡しますので、よろしくお願いします。」と言って帰られる方がいらっしゃいます。ご高齢の患者さんに多いようです。多分患者さんは、「またそのうち歯の具合が悪くなるだろうから、そのときはよそに行かずにまた先生のところに来るからね」という心配りからでしょうか。でもここにはいくつかの問題点があります。 

高野山　奥の院

まず第1点、　入れ歯にしても、小さなかぶせ物にしても失ったご自分の歯を補う人工臓器です。入れた物が完全に自分のものになるにはリハビリが必要です。特に、「インプラント」や「磁石式の入れ歯」など大掛かりなものが入るときはなおさらです。その理由をひとつだけ挙げますと、最終的な入れ歯や冠が入ると、舌触りや、噛め具合が変化しますので、あごや肩の筋肉、かみ合わせなどに変化が起こります。治療が終わるまで長いこと歯が入っていなかったとしたらさらに長い調整が必要です。それなのに微調整なしで、終わりにするのは大きな外科手術が終わって、リハビリなしでいきなり社会復帰するようなものです。入れ歯や冠を入れた時はその後しばらくリハビリと調整が必要なのです。

次に第2点目、　このようにお考えのかたは「歯は悪くなるものであり、歯の治療は何か物を入れたらその後は手入れや調整の必要はなく、悪くなったら新しく作ればよい」とお考えなのかも知れません。自動車でも車検などの定期的なメインテナンスを行えば、長く使えることはみなさん理解されていると思います。歯もまったく同じで、メインテナンスフリーではありません。しかも、次にお口にトラブルが起きて、自覚症状が生じたときは、現在の状態より悪くなっていて、また痛い思いをしなければなりません。　昔のお年よりは歯は悪くなるものとあきらめていたかもしれませんが、歯は老化で悪くなるものではありません。メインテナンス次第で一生ご自分の歯でおいしく食事していただくことは可能です。さらに平均寿命が延びて、昔のお年よりもずっと長生きされると思いますので、お口にトラブルが起これば昔のお年寄りよりも長く不自由な思いを余儀なくされます。

　ですから、悪くなる前に定期的に来院していただき、微調整やメインテナンスを行うことが、患者さんにとって経済的にも、そしてなにより健康にとって有益です。定期健診は悪いところを早期発見する目的もありますが、悪くならないように微調整したり、汚れをクリーニングするのが大きな目的です。　実は治療後の微調整やお口のクリーニング（ＰＭＴＣ）こそ歯科医師や歯科衛生士の腕の見せ所なのです。患者さんの状態は千差万別ですから、技工師が作成したのをさらにその患者さんにあわせて調整し、メインテナンスすることが長持ちの秘訣なのです。　「悪くなったらまた来ます」は大変な損失です。
定期健診で、健康なお口を維持していただき、楽しい人生を送っていただけることをお祈りいたしております。

高野山　奥の院

タグ：歯科 インプラント PMTC