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入れ歯が合わないってそもそもどういうこと?(入れ歯の問題点編) [歯の話]

  部分入れ歯というと皆さんが嫌われる原因のひとつに見た目の問題があります。
ひとつは入れ歯の留め金が目立つと言うものがあります。
前歯に留め金がかかっていると他のヒトから「あ!あの人いれば」と思われそうでどうしても口もとが気になります

   留め金は見た目上の問題だけでなくいくつかの問題があります。
まず第1点は「入れ歯が動かない、外れないように」という留め金の目的そのものに問題があります。
つまり上記の目的を達成するために、残っている歯にしっかり固定すればするほど、その留め金にまとわりつかれている歯は「入れ歯を支える」という負担が増えるのです。そして留め金の部分は不潔になりやすく、むし歯や歯周病になりやすいのです。(動く入れ歯はもっと問題なのですが>>>小さい(動く、あっていない)入れ歯は歯ぐきをますます痛めます

  いつも住人はお神輿担ぎに例えるのですが、歯を失っていない人と言うのは左右14人づつでおみこしを担いでいるようなものです。
歯を失うと言うことはこの担ぎ手が徐々に減ってくるのです。最初一人担ぎ手がいなくなったくらいであれば残された人たちはそれほど負担に感じないかもしれません。しかし、2人減り、3人減り、と減ってゆく、それも左右アンバランスに減っていけば、残された担ぎ手の負担は急速に増えだし、そのことで、ますます担ぎ手が減ってゆく・・・といった感じで、急速にはがなくなってゆくのです。

残っている歯にしてみれば、失われた歯の分だけ負担が増えているのに加え、以上のような問題がふりかかってくるのです。つまり、ただ入れ歯を作って入れるだけでは問題は解決せず、残っている歯と入れ歯によるかみ合わせを再構築することが非常に大切なのです。
ただ入れ歯を作って入れるだけのために、入れ歯の留め金がかかっている歯が順に悪くなって、入れ歯がだんだん大きくなって、やがて総入れ歯になるのが、大方の昔のお年寄りの入れ歯の顛末でした。

そこで、入れ歯を作る際には留め金のかかる歯に過重負担がかからないような、そして全体のかみ合わせがバランスよくなるような設計を行う必要があります。ここは歯科医の腕の見せ所です。つまり噛むために入れ歯を入れるだけでなく、これ以上残っている歯を痛めつけないような入れ歯を作ることが重要です。

DSC_7173 (Small).JPG大野寺石仏

 次に入れ歯の見た目について、歯があったころのような口元やかみ合わせにならないということがあげられます。
歯を失うと顎の骨がやせてしまいます。前歯が引っ込むととたんに老人顔貌になりますが、前歯だけではありません。
(余談;片方の奥歯がないまま放置されていると、歯茎が痩せるのもあるが、噛めないほうの筋肉が痩せて、頬っぺたも痩せて、顔の形が左右非対称になる。テレビに出ているヒトなども注意深く観察すると、「この人ひょっとして奥歯ないんじゃないかな」と思える中年芸能人を時々見かける)

お若い頃にあった場所に同じような歯を並べることが出来れば、このような問題はかなり解決するはずなのですが、もとあった場所に歯を並べると、入れ歯がボトボト外れたり、動いたり、割れたり、ということが起こります。結果的にもとあった場所よりも内側に歯を並べなくてはならないことが多いのですが、そうするとどうしても顔のハリがなくなると同時に、舌を安置するスペースが狭くなり、なにか窮屈な違和感の強い義歯になってしまいます。
あちら立てればこちら立たず見たいな綱渡り的なことで歯科医は苦労しながら入れ歯を作っています。このようなことは患者さんと時間をかけての試行錯誤が必要な作業ですが、残念ながら現在の保険診療では1度義歯を作ると6ヶ月は再製作が出来ません.

次に前歯などの形です。前歯の形などはだれ一人として同じ形や大きさの形はいらっしゃいません。ところが、入れ歯に使用されている人工の歯は既製品なのです。ですから、総入れ歯の患者さんなどは皆さん同じような口もとをしています。
しかしながら、1種類という訳ではありません。色や形、大きさなど多少バリエーションがありますので、詳しくはかかりつけの歯科医にご相談ください。

 人工歯の話が出ましたのでついでに余談をひとつ。
入れ歯の人工歯はほとんどプラスティックで作られています。昔のプラスティックに比べ改善はされてきていますがプラスティックの場合、一生懸命噛みあわせをばっちりに調整してもすぐにすり減り始めるのが問題点です。よく噛める(使っていただける)入れ歯ほど速くすり減ってしまい、せっかく合わせたかみ合わせが変わってしまい、残っている歯への負担が増え始めてしまいます。
そして、入れ歯がすり減ると入れ歯にかかる負担は減りますので、痛くなく具合のいい入れ歯のように感じます。しかしこの快適さが実は落とし穴で、相対的に残っている歯の負担は増えており(入れ歯を入れてないときと同じ状況になってしまい)、残されたご自身の歯のトラブルが増加することになります。
すり減らないようにするには入れ歯のかみ合っている部分がすり減らないような工夫が必要です。そうでなければ頻繁に再製作せざるを得ません。

何か暗い話になりましたが、今まで述べてきたような感覚は個人差がありますので、すべての患者さんがこのように感じているわけではありません。

 入れ歯が得意な歯科医と、それほどでもない歯科医が存在するのも事実であり、全国の歯科医院で均一なレベルの義歯が提供できていないかもしれません。
 入れ歯の具合が悪いと食事も出来ず、話もうまく出来ず、御不自由なことと思います。「欠陥入れ歯を入れられた!」と感情的になるお気持ちも理解できます。しかしながら今まで3回にわたってお話してきたようなことが、密接に絡み合って、患者さんの希望、患者さんの身体的、歯科医学的、保健医療政策的制約を受けて、入れ歯というオーダーメイドの人工臓器が出来上がってきます。あえて誤解を恐れずに申し上げれば、制約の上に成り立っている人工臓器である以上、すべての患者さんに完全に満足いただける義歯は難しいのではないでしょうか。そして、日本の歯科医師はそれほど悪徳歯科医ばかりではありません。皆さん善意で治療しています。しかし、歯科医は今までお話してきたようなことを説明する時間を与えられていません。(患者さんにとっては説明が不十分とお感じになっていることでしょう。これは政治、経済的問題です。)

  最後に日本の歯科技工士さんは手先が器用で大変優秀です。しかしながら近年技工士さんになる人が減少しています。それは、大変な職人技が必要なのに、社会的にも経済的にも評価されていないのです。
保険の入れ歯はお上が決めた公定価格であり、歯科医や技工士はその価格を押し付けられているからです。日本において部分入れ歯はオーダーメイドにもかかわらず価格が安すぎます。今まで述べてきたような欠点があるので、決して患者さんにとって満足のいくものではないかもしれませんが、日本ほど入れ歯が患者さんから安易に受け止められている国はないのではないでしょうか。
国民皆保険で、安く入れ歯が作れるのは国民にとって幸せですが、今の価格ではとても満足の行く入れ歯は作れませんし、技工士さんが魅力ある職業にはなりえません。このままでは日本の歯科技工は農業の二の舞になりかねません。せっかくよい技術があるのに残念です。これはある意味政治の責任です。

入れ歯は毎日使う消耗品かもしれませんが、人工臓器です。少し高くてもよい入れ歯を大事に使うような国になればよいと思います。

磁石式(マグネット式)の入れ歯http://onoki.blog.so-net.ne.jp/2008-02-19-1

総入れ歯についてhttp://onoki.blog.so-net.ne.jp/2008-03-05

入れ歯が合わないってそもそもどういうこと?(痛い編) http://onoki.blog.so-net.ne.jp/2008-10-15
入れ歯が合わないってそもそもどういうこと?(気持ち悪い編)http://onoki.blog.so-net.ne.jp/2008-10-16

211ページ (Small).JPG
住人注;曲線をたどってゆくと、あなたの将来を予想しています。20本以下になると歯を失う速度が速くなることに注目してください。

吉野浩一、松久保隆、高江洲義距:職域における成人現在歯数および健全歯数のパーセンタイル曲線における評価、口腔衛生会誌,50;40-51,2000

大野寺

 部分入れ歯用 パーシャルデント 108錠


タグ:入れ歯 歯科
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