SSブログ

「信頼できる歯科治療」は信頼できますか [エッセイ]

 先日、広告代理店とおもわれる会社から資料が送付されてきた。 完全保存版歯科医療MOOK という日経MOOKに掲載する広告の勧誘である。
この手の名医とか、インプラント治療医とかいった、雑誌広告の勧誘や自費出版の勧誘が郵送されて来たり、 インプラント治療の新聞広告に一口乗らないか、インターネット上の露出度を上げるためにSEO 対策しかないか、と言った電話やFAXが診療中にもかかって来たり、 住人としてはすこし食傷気味である。
   というのも、この手の雑誌はほぼ宣伝広告雑誌だからである。専門医のリストなどが後ろの方に申し訳程度に載っている場合もあるが、露出度が高いのは、高額な広告宣伝費を払っている医院である。われわれ同業者が見て、「あ、この先生が巻頭に載っているているのであれば納得」ということになるが、実際はそうでない場合が多い。
むしろ、我々が思う所の名医は、この手の本への露出をあえて避けているようにさえ思われる。(そのことは当のジャーナリストが一番理解しているはずである)
歯科界のコンセンサスに反するような治療法を紹介ている場合もあり、患者さんに正しい知識を紹介するツールになっていない。 かえって歯科界への信頼を失う原因になっているのではないかと危惧する。
住人の周囲には「このような本に名前が載ることで、この人たち(広告主)と同列に扱われるのは嫌だし、人間性を疑われる恐れがあるので、断るようにしている」とさえいう先生もおられる。

DSC_1425 (Small).JPG神宮

 この手の雑誌は大手新聞社や大手出版社のドル箱の書籍になっているらしいのだが、今回はそのタイトルがふるっているので、まだ出版されてないので、読んで実際に確認したわけではないが、企画書に載っていた表題を御紹介する。
「信頼できる歯科治療」
~信頼できる医療機関で受けたい~インプラント治療
歯周病治療~専門知識と技術で歯を守る~
等々(予定)・・・・だそうである。どうお感じになりますでしょうか?

如何に歯科業界が信頼されていないかの証左となるものであり、大変残念であるが、
どうやら、15万から190万円出せば、こんな住人でも信頼できる歯科医の仲間入りができるらしい。
実際手に取ったわけではないが、おそらく、この本に掲載されている歯科医院がすべて信頼できる歯科医院かのように読者が勘違いできるような雰囲気で、構成されるのであろう。 お金を出せば患者さんの信頼が得られるのであれば、安いものかもしれないが、信頼関係とは本来そんなものであろうか。逆にこの雑誌に露出しなければ、信頼できる歯科から除外されるのであろうか。

メディアには言論の自由があり、企業の経営方針はそれぞれの企業の自由であり、この本に広告を出そうとお考えの医院をどうこう言うつもりもさらさらないのだが、この手のメディアのやりかたに住人は常々疑問を感じていた。
大手出版社、新聞社は 読者からのクレーム(例えば、本を信用して受診したらのに、とんでもない病院を掲載しやがって・・・等)によって法的な火の粉がかからないような手を打っているだろうが、読者が何かトラブルに遭遇すれば、歯科界だけでなく、メディアへの信用をも失墜させるのは明らかである(メディアはそもそも信用されたいなどと思っていないのかもしれないが・・・)。

 「広告に190万円出す位なら、赤ひげに徹して、その190万を患者さんに還元したい」と思って発言しても、190万出せない負け犬の遠吠えにのようにしか聞こえないのが、歯がゆい。
しかし、そう思っているのは 住人だけでないことは すでに当ブログの「 本当に聞きたい! インプラントの話 」で紹介させていただいた。

広告というのはメディアにとって、自身の利益のために広告媒体を作成するのであるが、(→マスメディアはマスメディアのために存在する) 広告を出す側も、例えば、190万円出せば、それ以上の利益が期待できるから、広告するのである。それは、医療分野も同じで、なにも見返りを期待しないで190万円もだす企業はない。
当然、患者さんを増やし、利益を増やしたいから広告するのである。駅の広告、バスの広告、広告というのはそういうものである。広告産業というのはGDPの1%だそうである。(オイコノミア 平成25年10月1日放送分,NHK)
広告することが悪いわけでは無論ないが、裏を返せば、地域の患者さんから信頼され、もうこれ以上来てもらったら困るほど患者さんがあふれている病院は広告などしたりはしない。

 最近、他院でインプラント治療した患者さんや治療途中の患者さんの相談が増えている。
患者さんの訴えていることがすべて正しいとは思わないが、コミュニケーションが欠如しているのは間違いない。
「保障期間など十分説明がなかった」、「保険の治療はよそでやってもらってください」とか、「うちはインプラントしかしませんので他は近くの病院でやってもらってください」とか言われた、「インプラントの隣のまったく治療していない自分の歯が腫れる」等々訴えて来院される患者さんが通っていたのは、多くは大々的なテレビ広告を行っていたり、高級なオペ室完備とか、最先端CT完備とか、手術の数の多さを盛んにマスメディアで宣伝広告している医院である。
これらの患者さんがその医院を受診した動機はなにがしかの情報を信頼したから受診したはずである。
その情報が必ずしも患者さんにとって適切でなかったからこのような患者さんが増えているのであろう。

この手の本を必要とする一般人の方がいるから(中には歯科医自ら買っている場合もあるかもしれないが・・・)、現在でもこのようなビジネスが成立するのであろう。 
 お金を出して本を買わないと自分にとって信頼できる歯医者がわからない。出会うことが出来ないという患者さんが増えているのだが、その原因の一端はマスメディアにあるかもしれない。なんとも切ない時代である。

メディアの皆様におかれましては、報道の役割を十分考えていただいて、自分の足で稼いだ情報で、広告収入に依存しないMOOK本の出版を是非期待いたします。歯科関連企業の皆様におかれましては 医科界における製薬会社等を見習って、メーカーによるスマートな広告で、歯科界全体の知名度アップできるようなカラクリを考えてください。よろしくお願いします。

 

歯科大教授が明かす 本当に聞きたい! インプラントの話
マスメディアはマスメディアのために存在する
世の中のからくりについて考える3~情報(広告)と企業の利益~
現代民主主義の病理―戦後日本をどう見るか
「本当のこと」を伝えない日本の新聞
患者と歯科医師の信頼関係


nice!(0) 

nice! 0