SSブログ

お勧めの一冊No.12 [お勧めの1冊]

武士の娘 (ちくま文庫) (文庫)
杉本 鉞子 (著), 大岩 美代 (翻訳)

文庫: 384ページ
出版社: 筑摩書房 (1994/01)
ISBN-10: 4480027823
ISBN-13: 978-4480027825
発売日: 1994/01
商品の寸法: 15 x 11 x 2 cm

杉本鉞子は、1873年(明治6年)、越後長岡藩の家老の家に武士の娘として生れ、厳格に育てられた。
そんな一人の日本人女性が結婚してアメリカにもわたって、祖国日本とアメリカを比較しながら語った自叙伝的「武士道」女性版と言える書である。

そんな彼女が本書で一番言いたかったことは住人の関心事とは別の事柄なのだが、これは実際に読んでいただきたい。最後のページに書いてあります。

 本書を読んで気付いたことであるが、
よく戦国武将の末裔などという人がテレビに出てくる。
幕末の激動を扱った本にはよくお目にかかるが、実は、それぞれの個人にとっては、明治に入ってからの時代の変わりようの方が激動であったのではないだろうか。

そんな中、
生粋の武士の精神を持った人種が現代まで生き残るのは非常に困難なことであろう。
なぜ生粋の武士が生き残れなかったのかはこの本を読めばよく判ることだが、
簡潔に言うと、ルールが変更になったときに頑なに昔のルールにこだわったからである。
その人たちが劣っていたわけではなく、ルールの改定とその後の世の中が、その人たちの今までの倫理観では受け入れられなかったので、あえて従おうとはせずに、滅びることを潔しとしたからである。
現在、武士の末裔と称している人たちは ルール変更に柔軟に対応できた人たちであろう。

話が横道にそれたが、
江戸時代と現代を比較しても、様々な視点で、いろいろな議論はあろうが、
この本に出てくる世界は、秩序があり、美しい日本であり、現代の日本にはそれがないことは間違いなさそうである。
特に渡米するまでの旧家の風習や、季節の行事は大変美しく想像できるし、親子や使用人との関係の中にもきりりと引き締まったよい緊張感と愛情が伝わってくる。
武士の娘からの目線で綴られているで、断定はできないが、その家で働くものたちも貧しいかもしれないが穏やかな日々の暮らしが伝わってくる。

いつも考えることだが、わが国はは明治以降GNPが増加したに違いないし、個人の自由と平等は拡大された。しかし、結果としてそれぞれの日本人の国民総幸福量(GNH)は増えたのだろうか?

 住人の一番の関心事は「どの様な環境で、彼女のようなすばらしい人格の女性、いや日本人が育まれたのであろうか」という点である。
筆者は幼少の頃、菩提寺の僧より孔子を叩き込まれており、彼女の思考の根幹を成しているのか、
聡明で、合理的思考を持ち合わせながら旧来のものを尊重する精神も同時に持ち合わせている。
しかも東京で女学校時代洗礼を受けていることからもわかるように、柔軟性と適応性も持ち合わせている。これらの柔軟性も芯に一本筋が通っているから、ぶれたように見えない。

結婚によりアメリカに住むようになり、すべてがめずらしく目新しい暮らしの中で「武士の娘」として身につけたものを失うことなく当時のご本人の価値観で消化してゆく力を持っている。

彼女が特別なのか、当時の同程度の武家の娘は同様だったのか住人にはわからないが、とにかく宗教心、理性、知性が充実している。
あとがきにあるが本書は 1925年に英語で出版されたのだが、7カ国語に翻訳されている。本書は近年、日本語に翻訳されたもの、翻訳作業も著者がかかわっている。
数年間コロンビア大学で日本文化史の講義を担当されている事から解る様に、相当な才女である。
その文章の美しさとその背後に見え隠れする、思慮深さ洞察力、器の大きさいずれも当時武家の家の躾と教養が彼女を育てたことは間違いない。

男女の問題などといった低レベルの話でなく、昔美しい国、日本があったことを再認識するために今を生きる日本人全ての方にお勧めです。


タグ:日本人
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。